Biosketch
イチローカワチ(MB.ChB., Ph.D)
ハーバード公衆衛生大学院 社会・行動科学学部 学部長・教授
Harvard T.H. Chan School of Public Health
John L. Loeb and Frances Lehman Loeb Professor of Social Epidemiology
Chair at the Department of Social and Behavioral Science
1961年東京生まれ。12歳で父親の仕事の関係でニュージーランドに移住。オタゴ大学医学部卒業。同大学で博士号を取得。内科医として同国で診療に従事。2008年にハーバード公衆衛生大学院社会・行動科学学部長に就任し現在に至る。
1992年からハーバード公衆衛生大学院にて教鞭をとる。社会疫学の最初の本である「Social Epidemiology」を共同執筆。最近では、2011年3月11日の東日本大震災からの回復において社会の絆が健康に与える長期的な影響を調査している。このリサーチの研究費は、アメリカ政府により提供されている。
2013年には、ハーバード大学で行なわれている一般向けの無料のオンラインコース「HarvardX」にて、Health and Society (健康と社会)というコースを開講。世界中から32000名の聴講者が募る人気コースとなる。カワチ氏は、国際的な科学雑誌である「Social Science & Medicine」の編集長も務める。また、アメリカ医学研究所(IOM)や米国科学アカデミー(NAS)のメンバーに選出される。
社会疫学の研究に加え、もう一つの大きな使命は日本酒と寿司の素晴らしさを世界中に広めること。
■その他の所属
・ Co-Director, Robert Wood Johnson Foundation Health and Society Scholars, Harvard site.
・ Co-Director, IMSD (Initiative to Maximize Student Diversity) Training Grant
・ Chair, Institutional Review Board (IRB), HSPH
■研究テーマ
Social Determinants of Health 健康の社会的決定要因
私の研究は、マクロレベルの健康の社会的決定要因(収入格差、社会的なつながり、政治参加)からミクロレベルの要因(地域、近所や職場の環境的な影響)、さらには個人レベルの要因(ストレス、循環器疾患に影響を与える社会心理的なリスク要因)まで幅広い関心を持って研究をしています。
Income inequality and population health 収入の格差と人々の健康
私は、格差が増大することで健康にどのような影響があるのかを調査するために、実証的な研究を行なってきました。 共同研究者たちと主にアメリカ、ブラジル、そして日本などにおいて、収入格差が健康に与える影響を研究してきました。我々の研究は、主に収入格差と健康との間の二つの関係について明らかにすることに着目しています。
Social capital and social cohesion ソーシャルキャピタルと社会の絆
今まで、健康とソーシャルキャピタル(人とのつながりにより得られる社会関係資本)の関係を明らかにすることに力を注いできました。日本語には、「絆」や「お互い様」「情けは人のためならず」など、ソーシャルキャピタルのイメージをとても良く表す言葉がたくさんあります。特に、居住環境や職場、学校における社会的つながりの健康的な効果に関心があります。社会的な絆は「お互い様」の精神を育み、物質的な交換や、コミュニティのメンバー同士の規範を保つことや、信頼を通じて集団的な行動をとるための潤滑油になることを促します。結果的にそれが健康促進に役立つという仮説を元に、研究を行なってきました。現在行なっているプロジェクトは、東日本大震災の地震及び津波の被害があった宮城県岩沼市で行なっています。社会的なつながりが、人々の健康面での回復力にどのような影響を与えるのかを長期的な調査を元に研究しています。
Collateral health effects of social ties 家族の健康と社会的なつながり
人間関係が健康に与える影響全般にも興味があります。例えば、 家族の死別が残された家族に与える影響、兄弟・姉妹の生まれた順が健康に与える影響、婚姻状況の変化が健康行動に与える影響、介護が介護者の健康に与える波及効果等を様々な国のデータを元に調べてきました。
Neighborhood influences on health 周囲の環境が健康に与える
フィンランドや日本の共同研究者とともに、近隣・近所の住環境が健康に与える影響について調べてきました。例えば、地域の食環境(レストランやスーパーマーケットの有無)や、運動可能な近隣環境、肥満、その他の健康に影響を与える行動(飲酒や喫煙など)の関係です。我々は特に、地域や近隣の環境全体と住民の健康及び健康に影響を与える行動との因果関係をより明確にすることに関心があります。
Psychosocial work environment 働く環境における心理社会的な影響
職場における社会心理的な要因が働く人々の健康に与える影響を研究してきました。例えば、仕事上のストレスにおける健康への悪影響、非正規雇用などの不安定な雇用や仕事への不安感、定年退職への移行などが健康に与える影響などです。特に、昨今の世界的な潮流を踏まえ、労働力の高齢化、及び、雇用形態や労働力の移動などを含む、グローバル化時代の労働市場の柔軟性に対する需要に着目しています。
Re-examining social stratification and health 社会階層と健康の影響に関するさらなる調査
教育と収入の変化が健康に与える影響について、様々な調査手法を駆使しながら、因果関係を明確にすることに半歩近づくための研究を行っています。共同研究者たちと様々な疫学・統計学的な手法を使用し、単なる相関関係(例:AとBに関連がある)から因果関係(例:AがBに作用している、もしくはBがAに作用している)を明らかにすることは、パブリックヘルスでの問題解決の上で非常に重要です。
Behavioral economics in public health 健康分野における行動経済学
社会・行動科学学部の学部長として、パブリックヘルスは、行動経済学から多くのことを学ぶべきだと考えています。現在は、ハーバードで大学院生向けに行動経済学の授業も教えており、パブリックヘルスにおける行動経済学のアプローチについて、教科書を執筆中です。
Education
MB.ChB., 1985, Otago University, New Zealand
Ph.D., 1991, Otago University, New Zealand